rTMS治療について
rTMS(反復的経頭蓋磁気刺激)治療とは、repetitive Transcranial Magnetic Stimulationを略したもので、頭文字の”r”を取って単にTMS治療と呼ぶこともあります。
8の字コイルという特殊なコイルを用いて、頭の外側から大脳を局所的に刺激し、神経回路の可塑性を生み出すことで、脳機能を正常な状態に戻すことが可能です。
rTMS治療の適応症
rTMS治療は2007年にカナダに、2008年に米国に承認されましたが、日本ではその11年後の2019年6月に難治性のうつ病に対するrTMS治療が保険適応になりました。
その11年の間にも、海外でのrTMS治療はめざましく発展していました。
海外の事例も含め、rTMS治療の適応症は下記のように精神科領域を中心に拡大しております。
- うつ病
- 強迫性障害
- 躁うつ病(双極性障害)
- 発達障害(ADHD/ASD)
- 睡眠障害
- 不安障害
- パニック障害
- 拒食症
- PTSD
当院ではrTMS治療の新しい機器であるnovel TBS(ノーベルシータバースト)を導入しています。
保険診療で行われるconventional rTMSと比較して、効果が出るまでの通院回数・頻度を減らすことができます。
さらに疾患・治療対象によってはbilateral protocolでrTMSを実施することでより望ましい効果を発揮することができます。
こんな方におすすめです
当院でのrTMS治療は以下のような方におすすめです。
- 副作用などが理由でお薬を減らしたい方、なるべく使用したくない方
- 治療期間を短期間にとどめたい方
- お薬での治療の効果が難渋しており、他の治療方法を試してみたい方
- なるべく早く治療をして、治療期間を短くし、仕事への復帰を早くしたい方
治療の流れ
- まずはBeam F3法により治療対象となるDLPFC(背外側前頭前野)の位置を測定します。
- 脳のM1領域(運動野)を刺激し、患者さんごとに最適なMEP(運動誘発電位)を測定します。
- DLPFCに対してrTMSによる刺激を実施します。
(時間は治療プロトコルによりますが6分~37分程度、推奨は16分) - DLPFCの位置は記録しておき、次回以降の測定時間を短くします。
- rTMS治療は20回~30回程度実施することで十分な効果が得られる回数依存性の治療です。
しっかりと回数をこなしていただく必要があります。
副作用について
rTMS治療は薬剤治療などに比べて副作用が少ない治療方法ですが、下記のような副反応が出現することが報告されております。
- 頭皮痛:10%
- 頭痛:5%程度
- (てんかんの既往がある場合)けいれん発作:3万人に1人程度
またrTMS治療は確立してから十数年が経過しておりますが、まだまだ発展途上の分野です。
他の治療に比べ副作用が小さく、効果が期待できる治療ではありますが、予期せぬ長期的な副反応については現時点では予見できません。
医師の診察の上、治療のメリットがデメリットを上回る場合において実施させていただきます。
保険診療との比較
この表はスワイプできます一般的な保険診療(薬物療法) | テスラクリニックの rTMS治療(自由診療) |
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薬の使用 | 使用する | 使用することもある ※併用なしの治療も可 |
副作用 | 眠気、めまい、吐き気、 頭痛、性機能低下など |
軽度の頭痛・頭皮痛 ※治療中に輪ゴムで はじくような軽い刺激がある |
効果が出るまでの 時間・期間 |
3~8週間程度 | 1~4週間程度 |
治療期間 | 1年~3年程度の通院と服薬 | 4か月~8ヶ月程度 ※一部プロトコルはさらに短縮 |
治療頻度 | 週に1回~月1回程度の通院 | 週に1~2回程度の通院 ※治療頻度を上げることで 治療期間を短縮可能 |
費用
料金はこちら事例について
当院医師が所属する研究グループが独自に530人のrTMS治療を受けた患者さんの統計を取った所、
- 8回終了時点
- 63.80%
- 16回終了時点
- 82.70%
- 32回終了時点
- 92.50%
の治療効果※を認めました。
- 詳しくは医師にお尋ねください。
うつ病に対するrTMS治療
当院でのrTMS治療は保険適応外となります。
rTMS治療は、以下に該当する場合は保険適用での治療が可能です。
経頭蓋磁気刺激療法は、抗うつ剤を使用した経験があって、十分な効果が認められない成人のうつ病患者に用いた場合に限り算定できる。ただし、双極性感情障害、軽症うつ病エピソード、持続気分障害などの軽症例や、精神病症状を伴う重症うつ病エピソード、切迫した希死念慮、緊張病症状、速やかに改善が求められる身体的・精神医学的状態を認めるなどの電気痙攣療法が推奨される重症例を除く。
(令和2年3月5日保医発0305第1号「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)」より抜粋)また、この他には2ヶ月程度の入院が可能かどうかも関係してきます。
うつ病患者の全体の3割程度が該当するとされていますが、実際にrTMSを保険診療で受けるハードルはまだ高いのが現状です。
保険診療で行われるrTMS治療のプロトコルは以下のようなものになります。
- 1Hz右低頻度刺激
- 10Hz左高頻度刺激 x 75回(37.5分間)
- (FDA承認) 10Hz左高頻度刺激 x 75回(19分)
いずれも同じセッションを短い間隔で続けていくプロトコルとなるのが保険診療でのrTMS治療です。
- 2023年2月現在、日本国内で保険適用になっているのはNeurostarという機種のrTMS装置のみであり、当院で保険適応のrTMSは実施できません。
低頻度刺激と高頻度刺激の違い
一般に、
- 「低頻度刺激」を与えると、脳の中で「LTD(long-term depression:長期抑圧)」が起き、シナプス(脳の細胞間の接続部分)の強度が長期的に低くなります。
- 一方、「高頻度刺激」を与えると、脳の中で「LTP(long-term potentiation:長期増強)」が起き、シナプスの強度が長期的に強くなります。
このように、「低頻度刺激」と「高頻度刺激」は、脳に与える影響が逆になります。当院ではそれぞれの目的に応じて、適切なプロトコル(方法)を決定していきます。
自由診療ならではのrTMS治療(うつ病)
nobel TBS(ノーベルシータバースト)
人の脳内で観測されるシータリズムとガンマオシレーションとのカップリング現象を模倣した特殊な高頻度刺激のプロトコルです。
従来の高頻度刺激よりも短時間で効果が出ることが知られており、50HzTBSでは6~9分のセッションで従来のFDAプロトコルと同等の治療効果が出ます。
- 50Hz 左TBS (9分間)
- 20Hz 右TBS (16分間)
Accelerate TMS療法
1日に2.3回セッションを実施するアプローチで、セッションとセッションの間隔は30分~1時間程度空けます。
短い期間でTMSを重ねることで効率的にLTP/LTDを誘発します。
1日に通院できるタイミングが限られてしまう忙しい方、なるべく早く治療したい方にご提案できるプロトコルです。
デメリットとして、やや頭皮痛や頭痛が表れやすい傾向にあります。
bilateral TMS療法
左の高頻度刺激と右の低頻度刺激を交互にあてることで脳の神経可塑性を効率よく誘導します。
SAINTプロトコル
スタンフォード大学で行われたrTMS治療のプロトコルで治療効果が抜群に高かったと報告されています。
5日間のプログラムで毎日複数回rTMS治療を行うもので、短期間で治療します。
発達障害(ADHD/ASD)に対するrTMS治療(自由診療)
発達障害に対するrTMS治療はうつ病に対するrTMS治療とは大きく異なります。
当院では現時点で最も治療成績の良いプロトコルとして
- 0.5Hz左低頻度刺激(16分)
- 20Hz右TBS高頻度刺激(16分)
によるbilateral TMSを採用しています。
治療の効果
左の脳を刺激して期待される効果
- 反芻思考(ぐるぐる思考)の改善
- 固定観念、こだわりの改善
- 不安、不眠、過眠の改善
- 感覚の過敏の改善
- 気持ちの切り替えやすさ(まあいいかという感覚を起こりやすくする)
右の脳を刺激して期待される効果
- コミュニケーション能力の改善
- 緊張の緩和
- 衝動性の改善
- 気分の浮き沈みの緩和
- メタ認知能力の改善
- 集中力、注意力の改善
- 後回し癖の改善
- ディスレクシア、ディスグラフィアの改善
なぜ左脳に低頻度刺激を与えるのか
脳波を測定するQEEG検査でもASD傾向が見られる方には左側頭葉、左DLPFC(背外側前頭前野)付近でのベータ波が過剰に見られることが知られています。
また過去の研究でASD傾向の強い方は物事を合理的に判断するDLPFCと他人の感情を理解するTPJ(頭頂側頭連合野)の繋がりが相対的に弱いことが指摘されています。
発達障害のADHDとASDは合併することが多々ありますが、左脳のベータ波の強さが問題の一つにあるようです。こだわりが普通の人に比べて強いASD傾向の人は、左脳に低頻度刺激を与えることで、他人の気持ちが理解しやすくなったり、こだわり感がマイルドになったりします。
強迫性障害に対するrTMS治療
左DLPFC(背外側前頭前野)に対する低頻度刺激が有効です。
またより効果が期待できるOFC(眼窩前頭皮質)に対するDeep TMSについて当院で治療を受けられるよう準備中です。
健常な方のパフォーマンスアップ
rTMS治療はその安全性・効果の高さから健常な方が健康増進のため使うことも可能です。
当院のスタンスとして、健常な方へのrTMS治療は原則bilateral protocolを推奨しています。
- 集中力をあげてパフォーマンスを良くしたい
- 注意力を伸ばしてミスを減らしたい
- コミュニケーションを円滑にしたい
- メタ認知で周囲の状況を把握して、段取り良く行動したい
- 感情の波をコントロールしてメンタルを安定させたい
- 睡眠の質を良くしたい
- 認知症の予防をしたい
上記のような効果以外にも、思いもしない良い効果が得られることがあり、rTMS治療の奥深さを感じる所です。