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精神科と糖尿病の意外な関係

2024.03.17

厚生労働省が定める医療計画において、五大疾病とは、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患を指しています。現代の日本社会においていずれも重要な健康問題です。当院は精神科・心療内科ですので、精神疾患の患者様が多くご来院されますが、中には糖尿病を合併されている方もいます。

糖尿病の合併症にはなにがあるかご存知でしょうか?

3大合併症として、網膜症(網膜とは目の構造の一部です)、腎症、神経障害があります。その他にも脳卒中や虚血性心疾患など挙げればキリがないほどの合併症があります。その中でも心の病気と糖尿病の以外な関係があることをご紹介させていただきます。

たとえば、糖尿病患者はうつ病になりやすく、またうつ病患者も糖尿病になりやすいといわれています。

うつ病になると、血糖値のコントロールがむずかしくなり、糖尿病や脂質異常症の合併症が多くなりますので、うつ病を早期に発見し適切な治療を受けることが重要です。

糖尿病は国民の10人に1人といわれる国民的な病気です。早期は自覚症状がないため気づかなかったり、検査で血糖値が高く治療が必要といわれても治療を受けなかったりする人が多く、糖尿病で治療を受けている人は全体の半分弱にすぎないと推定されています。しかし糖尿病によって年間約1万5千人が死亡し、糖尿病による腎症で年間約1万5千人が人工透析を始め、年間約1,000人に糖尿病による高度の視力障害(失明など)が発生しています。このような合併症を起こさないようにするためには、血糖値に注意しながら生活習慣を改善する必要があります。

また、精神科で処方される一部の薬剤は、血糖値に影響を与えることが知られています。例えば、一部の抗精神病薬は体重増加やインスリン抵抗性を引き起こす可能性があり、これがリスクを高めることがあります。

糖尿病とうつ病との関係

これまでの調査によると糖尿病の約30%にうつ症状があるといわれ、糖尿病とこころの問題が重要視されるようになっています。糖尿病患者の13%は不安障害、11%はうつ病と診断され、5.7%は抗うつ薬を服用しているとの報告もあります。両者の関係について、神経系・内分泌系および免疫系の相互関係の研究がすすめられていますが、行動上の要因も大きいといわれています。

従来は、糖尿病と診断されることや糖尿病の治療(これまでの生活習慣を変えなければならなかったり、インスリン治療を始めなければならなかったりすることなど)、合併症の発症・進行などに伴うこころやからだの苦痛のために、糖尿病のある方はうつ病になりやすくなるのではないかと考えられてきました。最近では、糖尿病とうつ病の間にはよりさまざまな要因が関与する、複雑な関係があるのではないかと考えられるようになってきています。

糖尿病を自分で管理しなければならないことや、治療を続けなければならないこと、がんばっていたとしても合併症になるのかという不安が出てきたり、合併症を発症すると自由に行動できなくなったりと、すべてのことが心の負担となってきます (糖尿病に伴うストレスといいます) 。

一方で、うつ状態になると、過食になったり、嗜好が変わったり、毎日の行動が減少したり、内服薬・インスリンなどの注射を忘れやすくなった結果、HbA1c 値が悪化し、合併症を発症しやすくなることがあります。これらがまた気持ちをうつにしてしまいます。

糖尿病の合併症などのリスク上昇

糖尿病とうつ病を併発すると、生活の質が低下するばかりでなく、深刻な影響がでます。死亡率が1.6倍上がり、医療費は4.5倍に膨れ上がります。また糖尿病の合併症である神経障害・腎症や網膜症が起きやすくなり、またそれらの合併症が悪化する危険性が高まります。

うつ病になると、こころの面だけでなく、からだの面にも症状が出てきます。例えば、ホルモンや自律神経など、からだの働きを調節するさまざまな機能に不具合が生じます。このうち、糖尿病に関係する変化として、インスリンの作用が弱くなる(インスリン抵抗性)と考えられています。

そればかりではなく、うつ病になると意欲や集中力が低下し、予約どおりに通院したり、お薬を定められたとおりに服用するといった糖尿病の治療に必要な行動が行えなくなったり、健康的な食生活や身体活動量を保つことが困難になったり、喫煙量やアルコール量が増えるなど、糖尿病の悪化を招く悪循環に陥りやすくなります。

このような状態が長期間続くと、高血糖や低血糖のために緊急に医療機関を受診する機会が増えたり、糖尿病の合併症がすすみやすくなったりします。さらには健康なからだを維持していられる期間(健康寿命)が短くなったり、医療費の負担が増加したりするとも言われています。

糖尿病のある方ではからだの健康に加えてこころの健康にも気を配ることが大切なのです。

対処のポイント -うつ病を見逃さない

糖尿病とこころの問題が同時に起こったときは、まず両者が重なっていることを理解しなければなりませんが、糖尿病とうつ病を併発している患者の約半数は、「うつ病」になったことに気づいていないといわれています。うつ病は、こころの不調だけではなく、からだの不調として表れることもあります。からだの不調が糖尿病によるものなのか、うつ病のためなのか、判断が難しいこともうつ病に気づかない理由のひとつと考えられます。

糖尿病とこころの問題が同時に起こったときは、まず両者が重なっていることを理解しなければなりませんが、糖尿病とうつ病を併発している患者の約半数は、「うつ病」になったことに気づいていないといわれています。うつ病は、こころの不調だけではなく、からだの不調として表れることもあります。からだの不調が糖尿病によるものなのか、うつ病のためなのか、判断が難しいこともうつ病に気づかない理由のひとつと考えられます。

うつ病の症状(からだの不調)

  • 体重が減った
  • 食欲がない
  • 眠りすぎる
  • 動きや話し方が遅くなった
  • 性欲が減った

うつ病の症状(こころの不調)

  • 悲しい気持ちが消えない
  • 以前は楽しめていた活動に興味を持てない、楽しめない
  • 集中することや、物事を決めることが難しい
  • 自分を大切に思えない
  • 失敗したわけではないのに罪悪感がある
  • 死にたいと思う

このように精神科と糖尿病は密接に関連していると言えます。定期的な健康診断と生活習慣の改善により、糖尿病およびその合併症の予防と管理に取り組むことが重要です。自分の健康に責任を持ち、積極的にケアを行うことで、糖尿病およびうつ病の影響を最小限に抑えることができます。