PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは
2024.12.25
PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder)は、生命の危機や深刻な恐怖、トラウマ的な出来事を経験した後に生じる心理的な障害です。トラウマ体験に対する脳や心の適応がうまくいかず、症状が長期間持続するのが特徴です。
原因
PTSDは、以下のようなトラウマ的な出来事に曝露された後に発症することがあります:
- 戦争や戦闘の経験(退役軍人など)
- 自然災害(地震、津波、台風など)
- 暴力犯罪(強盗、性暴力、暴行)
- 事故(交通事故、職場での重大事故)
- 突然の喪失(親しい人の死亡など)
全ての人がトラウマを経験した後にPTSDを発症するわけではありません。遺伝的要因、過去の精神的健康状態、社会的サポートの有無などがリスクに影響します。
主な症状
PTSDの症状は、以下の4つのカテゴリーに分類されます。
- 侵入症状(フラッシュバックや悪夢)
- トラウマ体験が突然思い出される。
- 映像や感覚が現実のように感じられるフラッシュバック。
- トラウマを繰り返し思い出す悪夢。
- 回避症状
- トラウマに関連する場所、人、話題を避ける。
- トラウマを思い出させる状況を避ける。
- 過覚醒症状
- 常に警戒している感覚(過剰な驚き反応)。
- 睡眠障害や集中力の低下。
- 怒りっぽくなる、イライラする。
- 否定的な感情や認知の変化
- 自分や他人に対する否定的な思考。
- 楽しいことへの興味を失う。
- 感情の鈍麻(愛情や喜びを感じにくい)。
- 他人とのつながりの喪失。
診断基準
PTSDの診断は、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)の基準に基づきます。以下の要件を満たす必要があります:
- トラウマ的出来事の経験または目撃。
- 症状が1ヶ月以上持続する。
- 症状が日常生活や社会活動に重大な支障をきたしている。
治療法
PTSDは治療可能な疾患であり、以下の方法が知られています。
1. 心理療法
- 認知行動療法(CBT)
トラウマ体験に関連する否定的な思考パターンを修正。 - 曝露療法
トラウマに関連する状況や記憶に少しずつ触れることで恐怖を軽減。 - EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)
トラウマ記憶を処理するための独自の方法。
2. 薬物療法
- 抗うつ薬(SSRIやSNRI)
パロキセチンやセルトラリンなどが第一選択。 - 抗不安薬や睡眠薬(一時的な補助として)。
- 漢方:神田橋処方(桂枝加芍薬湯+四物湯)が効くことがある(オフラベル使用)
- その他の薬物療法:過覚醒(睡眠障害や過剰な驚愕反応)を緩和する目的で、ADHD治療薬であるインチュニブ(グアンファシン)を使用したり、注意力や集中力が低下の改善や感情調節機能の改善を目的として、同じくADHD治療薬のストラテラ(アトモキセチン)の使用を検討することがあります。いずれもオフラベル(適応外)としての使用であり、使用に際しては主治医・専門医とよく話し合われるのが良いでしょう。
3. 補助療法
- リラクゼーション法や瞑想
ストレス軽減を目的とする。 - rTMS(反復性経頭蓋磁気刺激法)
前頭葉の調整を通じて過覚醒や否定的思考を軽減する可能性がある。
オフラベル使用について
当院では、患者様の症状や治療ニーズに応じて、医師の判断に基づき、一部の薬剤を適応外使用(オフラベル)する場合があります。適応外使用とは、薬剤が承認されている使用方法以外の目的で使用されることを指します。このような治療法は、国内外の臨床研究やガイドラインに基づくものです。ただし、日本では正式な適応症として承認されていないため、効果や安全性について十分なエビデンスが揃っていない場合もあります。
詳細につきましては、診察時に医師にご相談いただき、治療の選択肢について一緒に検討いたします。