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2024年09月のブログ記事一覧

テスラクリニックの発達障害診療:コンサータは出せません

2024.09.13

当院では発達障害の診療を行っていますが、コンサータの処方はできません。その代わり、患者さんの困りごとに合わせて、処方内容を調整しています。

テスラクリニックの発達障害診療で用いることがある代表的なお薬には以下のものがあります。

  • ストラテラ(アトモキセチン)
  • インチュニブ(グアンファシン)
  • エビリファイ(アリピプラゾール)

上記に加えて、漢方薬やレキサルティ(ブレクスピプラゾール)等を組み合わせることもあります。

またうつ状態や不眠が強い場合には抗うつ薬を併用することや、うつ病治療を優先することがあります。

ストラテラ(アトモキセチン)カプセル

青いカプセルに入っているのが特徴的な薬です。(他の剤形もあります)

ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(NRI)で、脳内のノルエピネフリンのレベルを増加させることで、ADHDの症状を改善します。

副作用には頭痛、や吐き気、胃痛、性機能減退、不眠、過眠などが見られることがあります。

効果発現まで2-3週間かかることが多いです。

後発品のジェネリック医薬品も発売されており、抑うつ症状を伴っておらず、忘れ物、や2.3分の遅刻などが多い成人ADHD患者さんへのファーストチョイスとしてよく処方しています。

服用を継続すると「頭の中のごちゃごちゃ」が減ったと困りごとが改善する患者さんが多いです。

インチュニブ(グアンファシン)

インチュニブの有効成分はグアンファシン(Guanfacine)です。これはα2-アドレナリン受容体作動薬に分類されます。グアンファシンは、脳内のα2-アドレナリン受容体に作用し、神経伝達物質の放出を調節することで、注意力や衝動性、多動性を改善します。

ADHDで注意があっちこっちに行ってしまう症状に対して、効果があると落ち着いて話を聞けるようになります。

『ドラえもん』でいうところのジャイアンのようにすぐカッと怒ってしまうような、衝動性が強い患者さんに処方すると、カッと怒る頻度が減ります。

適応外ですが、複雑性PTSDの患者さんに処方するとトラウマのフラッシュバックなどが抑えられる傾向にあります。

インチュニブは「脳内多動を鎮める薬」と捉えることができるかもしれません。

もともと心臓疾患を治す薬として開発された経緯があるので(似た経緯を持つ薬にED治療薬のバイアグラがありますね)、副作用として低血圧を起こすことが知られています。日中眠くなってしまうことも多いので、夕食後に処方することが多いです。

一部の人には、眠気、疲労、頭痛、腹痛、食欲減退、めまいなどの副作用が見られることがあります。副作用が強い場合は、医師に相談することが重要です。また、妊娠の希望がある場合は処方できません。

エビリファイ(アリピプラゾール)

エビリファイは第3世代抗精神病薬に分類されます。抗精神病薬というのは脳内のドーパミン受容体やセロトニン受容体に作用し、神経伝達物質のバランスを調節することで、精神的な症状を改善するお薬の総称です。特に第3世代抗精神病薬はドーパミンの過剰にも不足にも作用する性質を持つことからDSS(ドーパミン・スタビライザー・システム)とも呼ばれています。

エビリファイは、ドーパミンおよびセロトニンの受容体に部分的に作用します。これにより、ドーパミンの過剰または不足を調節し、精神的な症状を改善します。

エビリファイは高容量6㎎~24㎎と低用量3㎎以下で異なる作用を持つ薬でもあります。高容量処方により、統合失調症、双極性障害(躁うつ病)等を治療します。また、うつ病治療の増強療法として使われることも多いお薬です。

いわゆるASD(グレーゾーンも含む)、自閉スペクトラム特性を持つ患者さんは、周囲の音や光といった情報を取捨選択する能力が低いことが多いのですが、(それゆえカクテルパーティ効果などの情報の取捨選択能力が働きにくく、混雑した空間などが苦手な方が多いです)低用量でエビリファイを処方すると、感覚の取捨選択が行いやすくなります。

寝ていても些細な物音で起きてしまう場合などに使うと睡眠の質が上がります。

エビリファイの代表的な副作用にアカシジアや過食がありますが、3㎎以上で出現することが多いので、1日1mgや2㎎で内服している場合はほとんどこれらの症状はでません。

一部の人には、体重増加、眠気、不安、吐き気、頭痛などの副作用が見られることがあります。重篤な副作用が出た場合は医師にご相談ください。

不登校① 不登校児童の数は年間30万人~44万人

2024.09.07

先日パークサイドこころの発達クリニックの医師・心理士向けを対象とした勉強会に参加してきました。院長の原田剛志先生の講義が非常に皆さんにも共有したい内容であったので、ブログに記載させていただきます。

今回のテーマは不登校です。

さまざまな理由で学校に行けなくなる児童・学生がいます。病気や経済的事情だけでなく、自分のつらさをうまく言葉にできず、病院受診もままならないお子さんも少なくありません。

学校に行けなくなる原因には、環境に適応できない状況がベースにあることが多いですが、学校側の問題・本人、家族の問題など個別に考えていく必要がありますが、ある程度システマチックに考えることもできます。

成長とともに学校で直面するハードルには例えば以下のようなものが考えられます。

  • 小学校1年生:新しい環境
  • 小学校3年生:勉強と9歳の壁(掛け算や割り算といった”概念”を使った計算が壁となる)
  • 小学校5年生:女子の成長、スモールグループ・スクールカーストの発生
  • 中学校1年生:自分で考えること

この不登校シリーズでは、不登校について構造的に考えていきます。

長期欠席と不登校の定義

年間30日以上の欠席が生じる状態を長期欠席といいます。文部科学省の定義では、不登校の定義を長期欠席者のうち経済的要因により学校に行けなくなったものと病気療養中のため診断名がついたものを除外したものとしています。

文部化科学省の発表ではこの長期欠席者が年間44万人、不登校が年間30万人程度となっていますので

(長期欠席者44万人)- (経済的要因)-(病気療養)>不登校>(文部科学省統計上の不登校30万人)

病気療養中の児童の中には身体の病気で長期入院を余儀なくされているような児童もいるでしょうが、数は限られています。

実際、病院に不登校の相談に行くと何らかの病名がつくことは多いです。小児科や内科で起立調節性障害、自律神経失調症、発達障害などの病名がついていることもあります。

一方で日本の精神科・児童精神科ですぐに受診が可能な診療所は限られていますので、病院に罹っていないために診断名がついていない、本質的に精神科・児童精神科が対応可能な「不登校」はもっといるかもしれません。

したがって、日本の不登校児童は30万人~44万人いるという計算になるのです。

<考察>

30万人いる不登校児童の問題、まずその数の多さに圧倒されました。文部科学省のサイトを参照してみましょう。

令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要 (mext.go.jp)

上記の資料をChat GPTに要点整理させてみると

  • 不登校の増加: 小中学校の不登校児童生徒数は299,048人で、前年度より22.1%増加し、過去最多となりました。
  • 長期欠席者の割合: 在籍生徒の3.2%が不登校でした。
  • 要因: コロナ禍による生活リズムの乱れ、友人関係の構築が難しいことなどが、不登校増加の背景として考えられています。
  • 支援状況: 61.8%の不登校児童生徒が学校内外で相談・指導を受けています。

個人的に気になったのはいじめに関する記載です。SNS時代・コロナ禍の背景になり、いじめの性質が変化しているようです。

  • いじめ認知件数: 小・中・高等学校および特別支援学校でのいじめの認知件数は681,948件で、前年から約10.8%増加しました。
  • 重大事態: いじめによる重大事態は923件で、前年より約30.7%増加しました。
  • SNSの影響: ネット上のいじめ認知も増加しており、いじめの認知全体が増えた背景に、SNSを通じた事例の増加があると考えられます。

実は、当院に相談に来る児童の多くは「なんとなく体調が悪くなる」「なんとなく学校に行きたくない」が多く、あきらかないじめを原因とした不登校の相談は少ない傾向にあります。

原田先生の講義では、不適応と過剰適応の問題に注目(今後掲載予定です)しており、当院もそれに倣っているのですが、文科省のレポートではいじめと不登校の因果関係に重点を置いて見ているというのが印象的でした。