2025年07月のブログ記事一覧
減酒の薬、セリンクロ──やめなくていいお酒の治療の話
2025.07.01
「お酒をやめるのは無理。でも、減らしたい」
そんな声を多く耳にします。
仕事のストレス、人付き合い、孤独感──
飲酒の背景には、それぞれの人生があります。
けれど、飲みすぎによって健康を損ねたり、家庭や仕事に影響が出始めたりすると、「そろそろ向き合わなければ」と感じる方も少なくありません。
完全にやめるのは難しいけれど、「少しずつでも減らせたら」。
そのような方に対して、医学的にアプローチできる選択肢のひとつが**セリンクロ(一般名:ナルメフェン)**です。
セリンクロとは?──“飲酒前に飲む”減酒の薬
セリンクロは、アルコール依存症の方を対象とした治療薬です。
従来の治療薬とは異なり、「断酒」ではなく「減酒」を目的としています。
- 服用タイミング:お酒を飲む可能性のある日の、飲酒の1〜2時間前に1錠
- 作用機序:脳の報酬系に働きかけ、飲酒による快感を和らげる
- 特徴:毎日飲まなくてもよい“必要時服用型”
つまり、「今日は飲んでしまいそうだな」と思う日だけ服用する薬です。
完全にやめるのが難しい方でも、少しずつ飲酒の頻度や量をコントロールする手助けになります。
とはいえ──治療の第一選択は「断酒」です
ここで大切なことをお伝えします。
セリンクロは確かに画期的な薬ですが、**アルコール依存症の標準的な治療はあくまで「断酒」**です。
セリンクロは、どうしても断酒が難しい場合に、次善の策として「減酒から始めたい」という希望に寄り添う選択肢です。
したがって、対象となるのは医師が「アルコール依存症」と診断した方のみです。
単なる“飲みすぎ”や“気になる程度”では処方の対象にはなりません。
「飲んだ量」を記録してみませんか?──減酒にっきアプリの活用
減酒治療をサポートするツールとして、**大塚製薬が提供している無料アプリ『減酒にっき』**があります。
- 飲酒日・飲酒量の記録
- 飲まなかった日には「クローバー」、適量の日には「スマイル」などの視覚的フィードバック
- 日記形式で気分や体調も記録可能
こうした自己観察の習慣は、セリンクロの効果をより実感しやすくするだけでなく、自分自身の変化に気づく大きな手がかりになります。
※アプリの使用だけで治療が完結するわけではなく、医師の診察と併用して用いることが推奨されています。
最後に──「お酒をやめるか、やめないか」はあなたが決めていい
減酒治療の目的は、「依存に支配されない人生を取り戻すこと」です。
そのための方法が、断酒であっても、減酒であっても、「自分で選ぶ」ことが何より大切です。
当院では、アルコールとの付き合い方を見直したいと考えている方のご相談をお受けしています。
ひとりで抱え込まず、まずは話してみませんか?
※ご注意
- セリンクロは、医師の診断と処方が必要な医療用医薬品です。
- 本記事は情報提供を目的としており、特定の治療を推奨するものではありません。
- 治療の可否や適応については、必ず医療機関でご相談ください。