鉄不足でうつや不安に⁉
2024.02.02
鉄欠乏症は、うつ病に類似した症状が出現することが古くから指摘されています。鉄欠乏は、ドーパミンなどの神経伝達物質の機能の障害を起こすことが報告されています。鉄欠乏はドーパミン機能を低下させることが示唆されるため、うつ病患者を含む精神疾患患者に対しては、血清鉄やフェリチン値による潜在的鉄欠乏をチェックし、食事療法や鉄剤による補充を行うべきであるとされています。
当院では薬物療法を軸に、うつの治療を行います。薬物療法といっても、できる限り少量のお薬でつらい症状をやわらげ、生活の質を向上させることを目標としています。
薬物療法を行う場合、血液検査で肝臓や甲状腺の機能を確認しながら経過をみていきます。その他にも、心とからだを健康に保つ役割のある鉄分や亜鉛の量もはかります。
また、鉄分や亜鉛の摂取量を食事などで増やすことで、うつ症状をやわらげてもいきます。
鉄分の効果
鉄分は正常な体の機能を保つのに欠かせないミネラル分です。赤血球が酸素を運ぶのに必要なヘモグロビンを形成するのに鉄が必要となります。
鉄分が不足すると赤血球が縮小し、うまく酸素を体にまわすことができなくなってしまいます。この状態を鉄欠乏性貧血といいます。主な症状としては疲れやすい、めまい、立ちくらみや蒼白い顔色、などです。
ではなぜ鉄分不足がうつの症状に繋がってしまうのでしょうか。実は、快感情や意欲に関係する脳の伝達物質であるドーパミンの生成には鉄分が必要です。
ドーパミンが不足すると慢性的な疲れ、意欲がわかない、不安や憂鬱感、集中力の低下などがみられます。
ドーパミンはタンパク質を多く含む食材から得られるチロシンというアミノ酸によって作られます。しかし、チロシンからのドーパミン生成を正常に脳細胞がドーパミンに反応するためには鉄分が必要です 。
当院で行う血液検査は、鉄分の貯蔵量を示すフェリチンの量をはかって貧血状態を把握します。フェリチンとは、体の内部に鉄を蓄えるタンパク質で、幹細胞などを中心に分布している。血液中の鉄分が不足すると、フェリチンに蓄えていた鉄分が放出されて、血液中の鉄分量を調節する。ふだん使う財布のお金を「ヘモグロビン」、貯金分を「フェリチン」とお金にたとえて考えるとわかりやすいでしょう。
「ヘモグロビン値が正常でも、このフェリチン値が低下していれば、鉄の貯金が減っていることになり、気分が落ち込む、イライラする、動機やめまいがする、目覚めが悪い、冷え性である、といった症状が出ます。
鉄不足の鉄欠乏性貧血の最近は男性も多いと言われています。ヘモグロビン値が低くなる貧血を『鉄分欠乏性貧血』というのに対して、フェリチン値が低くなることを『潜在性鉄欠乏症』といいます。健康診断の数値を見ただけでは鉄不足を見逃してしまうことも多く、この“貧血ではないのに鉄不足”の人がうつやパニック障害の人にとても多いのです。
鉄分不足は産後うつの原因にも
出産によって貯蔵鉄は空っぽになってしまいます。
フェリチン値5以下の人が20代の女性よりも30代・40代に多いのは、その年代に出産する人の割合が多いことをあらわしています。
妊娠と出産では鉄分が赤ちゃんへと移行し、お母さんの鉄分不足が深刻になります。これは「産後うつ」の発症と大きく関係していると言われています。
ですから、妊娠や出産によって大量の鉄分が必要な女性は、積極的に補給する必要があります。
亜鉛の効果
体内の神経伝達物質の中でも一番多いのがグルタミン酸です。グルタミン酸には神経を興奮させる効果があり、脳の活性化や、神経の成長および神経のコミュニケーションを促すのに必要な物質です。認知力や気分のコントロールと深く関係しています。そのグルタミン酸の働きのバランスを保つのを支えるのが亜鉛です。
うつ病と診断された人は、そうでない人と比べ血中の平均亜鉛量が14%下回っていること、さらにはうつが重症になるにしたがって亜鉛量が減少していくことが報告されています。
体内の亜鉛量とうつの症状が関係していることが推測できます。
最後に
お薬を使ってうつ病を治療する場合、医師の支えは必要不可欠です。
副作用なども報告されていますので、治療の経過やお身体の調子などを、血液検査を用いながら、しっかりと治療していくのが最善策となります。
お薬以外の方法でも、当院ではTMS治療などを行っていますのでご相談ください。