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新生活とうつ

2024.03.09

新生活とうつ 本格的な寒さも終わり、木々が新芽を吹く季節を迎えました。

本来なら心が浮き立つ春が到来したというのに、メンタル不調を訴える人が多いのもこの時季の特徴です。

春先を“木の芽どき”と呼ぶ言い方は古くからあり、俳句の季語にもなっています。文字通り木の芽が出て虫たちが活動を始める時期なので、ポジティブに捉えられそうなものですが、そうではありません。
この言葉は、昔から「身体的精神的にバランスを崩しやすいので、病気に注意するべき時期」という意味でも、言い伝えられてきたのです。
医療現場でもこの時期は、うつ状態に陥る人が現れたり、認知症の行動・心理症状(徘徊、不穏、興奮など)が悪化したり、不定愁訴(ふていしゅうそ/器質的な原因が見つからないのにさまざまな不調を自覚して訴える状態)が多発する時期でもあります。
木の芽どきに起こる不調は、一過性のものだからと看過してはいけません。不調の原因を把握し、しっかり対策を立てることが必要です。

就職、入学あるいは会社で昇進した…など、環境が変わるとうつ病を引き起こしやすくなります。新しい環境に十分になじむまでのストレスを感じることが、うつ状態やうつ病のきっかけになることは少なくありません。

新生活が始まると、多くの人は気持ちを新たにし、自分自身に期待をかけます。それがうまくいかないと、『頑張りが足りないからだ。もっと頑張らなければ』と考え、さらに自分を追い詰めて不調になる人たちもいます。過度にがっかりせず、気持ちを楽にしましょう。

どのような対策をとればよいのでしょう?

この時期に心身の不調を感じたら、心の状態もよく見直してみましょう。

ストレスの多い現代社会で心の健康を保つためには、よい意味での『適当さ』や『遊び』が必要です。食事、睡眠、休養、運動などの生活習慣を整えることも、心の健康を維持する基盤となります。

いつもと違う不調があり、長引くようなら、心療内科や、精神科を受診しましょう。小さなストレスが積み重なり、うつ症状やうつ病のきっかけになることは珍しくありません。

不眠や胃痛、下痢等の消化器症状が出現すれば内科を受診し、胃薬や睡眠導入剤などを処方される。あるいは、春は花粉症とも重なるので、全身の不快症状をアレルギーと誤解して抗ヒスタミン薬を処方されることもあるかもしれません。これによりまた、うつ状態をこじらせたり、早期発見を遅らせたりすることもあります。

身体が不調なときには心も大丈夫?と自分で問いかける習慣が重要です。家族同僚、後輩などもそういう視点で見守ってあげたいところです。

もちろん新しい環境におかれ多少のストレスを自覚することは、人間の防御機能として当たり前の作用で、それがすべてうつ病につながるというわけではありません。

グレーゾーンの「うつ状態」が「うつ病」へと進行しないためには、十分な休養と早期受診が有効です。

うつ状態が長く続くと、睡眠障害や食欲不振といった身体的症状がではじめます。眠れない、眠っても目覚めてしまう、食欲がない、胃痛や下痢などの消化器症状が続く、倦怠感などから仕事を欠勤、学校を欠席するようになると、うつ病を心配しなければなりません。精神科や心療内科を早めに受診するほうが、うつ症状を長引かせるよりは早めの改善が期待できます。ですが、精神科を受診することに抵抗感がある方も少なくないと思います。

睡眠障害がではじめて2週間以上、欠勤ないし欠席が続くようになったタイミングで、精神科や心療内科の受診をおすすめします。

以前は抗うつ薬の中には強い副作用(吐き気、下痢、不眠、性機能障害など)がありましたが、近年の治療薬の進歩によりほとんど副作用のないものも出てきました。ただし効果が出るまでには2~3週間程度かかることがネックになります。

当院では、内服をしないうつ病治療rTMS(反復的経頭蓋磁器刺激法)を取り入れています。頭に直接、強力な磁気をあて、刺激を与えること脳の機能低下を改善することを目的とした治療法です。

脳に直接刺激を与えるという治療に不安がある場合、治療そのものをいったん終了することができます。その点も体内に残る抗うつ剤治療とは違う点です。

うつ病患者の脳を画像診断すると、脳への血流量が著しく低下しているのがわかります。特に、人間の感情や人格を支配する前頭葉への血流量の低下と機能低下といった、共通所見がみられます。

rTMS治療は前頭葉の一部分に磁気をあてて刺激を与えることで、前頭葉の活動を活性化させる一方、前頭葉の機能低下を補うためにオーバーヒートしている脳の扁桃体という部位の過活動を抑え、脳機能のバランスを取り戻しうつ病を改善させていきます。

rTMS治療はうつ病治療の有効な選択肢の一つであり、利点としては薬物に頼らなくて済むこと、副作用がないことです。最近の抗うつ剤は、以前よりも副作用は少なくなったものの、それでも一定の副作用は生じるので、長期間にわたり内服しづらいという欠点もあります。内服治療を続けても、うつ病の10~20%は慢性化してしまうという投薬治療の限界もあります。

rTMS治療の利点は体の負担は少なく、即効性があるということです。うつ病治療は本来であれば中途半端にすることなく、学校や勤務先を休んで、しっかりと治療に専念することが望ましいのですが、外来でrTMS治療を受け日常生活を維持しながら加療できる場合もありますので、お気軽にご相談ください。

最後に

こころの病気は、本人が苦しんでいても、周囲からはわかりにくいという特徴があります。私たちは、病気や怪我をした人には「無理はしないでね」と、自然に声をかけることができます。しかし、こころの病気の場合は、外から見ても気がつかないことがあり、知らないうちに無理なことをさせたり、傷つけていたり、病状を悪化させているかもしれません。

私たちみんながこころの病気を正しく理解することはとても大切です。

あなたは一人ではありません。

どんな些細なことでも当院までご相談ください。