インターネット依存
2024.04.28
世界保健機関(WHO)は2019年にゲームのやり過ぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害」を国際疾病として正式に認定しました。スマートフォンなどの普及でゲーム依存の問題が深刻化し、健康を害する懸念は強まっておりギャンブル依存症などと同じ精神疾患と位置付け、治療研究や世界の患者数の把握を後押しすることになります。
インターネット利用が低年齢化し、GIGAスクール構想によって公立の小中学生に1人1台の情報端末が配布されるなど、子どもたちがインターネットにつながる機会は一段と増しています。昨今ゲーム市場が活況で、子どもを魅了するオンラインゲームなども多くなっています。
情報端末の使用ルールをはじめ、ネットやゲームへの依存を懸念する学校関係者や保護者も少なくないのではないでしょうか。子どもが情報端末と適切に付き合っていくには、どうしたらよいのでしょう。
どんな病気?ネット依存症とは?
勉強や仕事、家事などやらなければならないことよりも優先してインターネットをしてしまい、その時間や場所などを自分ではコントロールできなくなってしまうことです。インターネットによって、生活が回らなくなってしまっていたり、生活に大きな影響が生じている状態のことをさします。
以下の10個の質問に最近のあなたの状態を想像しながら、あてはまる個数を数えてみましょう。
①気が付くと思っていたよりも長くネットをやっていることがある
②ネット中にそろそろやめようと思ってもやめられなかったことある
③誰かと過ごしたりするよりもネットを選ぶことがある
④やるべきことがあっても先にネットをしてしまうことがある
⑤ネットのために仕事や勉強の能率や成果が低下したことがある
⑥ネットで新しい仲間を積極的に作ろうとしている
⑦ネットをしていると日々の心配やストレスを忘れられることがある
⑧ネットをしている時に邪魔をされると、イライラしたり、怒ったりすることがある
⑨もしもネットがなかったら、生活は退屈だろうし、やっていけないと思う
⑩普段の生活でもネットのことばかり考えていることがある
5点以上当てはまるがあった場合はネット依存症の疑いありという可能性があります。
こんな症状や兆候はありませんか?
ご本人の様子
「ネットやゲームに熱中して眠れなくなった(昼夜逆転してしまった)」
「ネットやゲームのやり過ぎが原因かもしれないってわかっているけど、学校や会社の成績が、以前より落ちてきてしまった」
「以前は趣味や友人づきあいがあったのに、最近はネットやゲームばかりしている。最初は楽しかったのに、今は義務のようにやっているけど止められない」
ご家族から見て
「朝から毎晩遅くまでネットやゲームをしている」
「食事に呼んでもネットやゲームばかりして、部屋から出てこない」
「ネットやゲームについて注意したり、スマホを取り上げるとひどく怒る」
現代社会とインターネット通信機器の発展によりいつでもどこでも仕事ができ、調べたいことはいつでも調べられるように、誰かとつながりを持ちたいときはいつでもつながれるようになりました。
手にしたデバイス(スマホやパソコン等)から、スポーツや音楽、娯楽情報など、関心のある情報を探し出せる様になってきています。パソコンや通信機器によって、私たちの生活環境は以前と変化してきました。趣味や仕事をするうえでも、私たちの生活はインターネットの恩恵をずいぶん受けています。半面、こうした通信環境の発展にともない、ネットやゲームが「手放せない」状況も生まれています。
ネット・スマホ向けのゲームは、無料で手軽に遊ぶことができる反面、飽きにくく何度もログインして利用してしまいやすくなっています。無料でのゲームプレイは制限があることが多く、制限を超えてよりゲームを楽しもうとすると課金が必要となり、のめりこむことでお金を浪費しやすいのです。また、チャット機能があることでゲーム内での交流がしやすく、現実の人間関係から離れたコミュニケーションの場が用意されているのです。かつてのゲームと比べてみると、オンラインゲームは最初は無料で敷居が低い代わりに、ゲームが飽きにくい工夫がなされており依存してしまう危険性もあります。
体への影響
食生活の乱れや運動不足から体力の低下が起きやすく、長時間うつむいていることで、ストレートネックになってしまうなど、身体的な問題が生じます。また、画面を長時間見続けることで近眼や乱視(場合によっては老眼)となってしまうことがあります。
こころの影響
ネットにのめりこみすぎてしまうことで、うつ症状が出てしまうことや、イライラしやすくなることが研究で明らかにされています。このため気力がなくなり、いつもならできることが中々できなくなるだけでなく、人に対して怒りっぽくなりやすくなるなど、その人らしさを変えてしまいます。
学業や仕事への影響
夜遅くまでパソコンやスマホを使用してしまうと、昼夜が逆転し翌日の遅刻や授業中の居眠りが生じ睡眠障害を引き起こします。これが続くと、授業についていくのが難しくなり、成績が低下してしまうことや、場合によっては学校を遅刻してしまうこともあります。もっと事態が深刻になると、欠席の増加や不登校に繋がる場合もあります。また、社会人の場合では仕事中の私的なネットの閲覧から、上司に注意を受けてしまい、信頼関係にヒビが入ってしまうこともあります。
家族や周囲への影響
本人にネットから離れるように強制したり、スマホを取り上げられたことで、家族に暴言や暴力を振るってしまうこともあります。家族関係にヒビが入ってしまい、元々の関係性が崩れてしまう恐れがあります。
ネットゲームに依存している人の脳内では、ネットゲームをすると大量のドーパミンが放出されます。これを受容体が受け取ると幸せな気分を感じる脳の回路が活性化し、ゲームが習慣になっていきます。しかしゲームを長時間行って脳の中にドーパミンが大量にある状態が続くと、受容体の数が減ったり、感受性が低下したりします。
ゲームを長時間すればするほど、受容体は減少。さらにドーパミンを出し過ぎることにより、生産が追いつかず分泌も減ってきます。最終的にはドーパミンを分泌する能力も受け取る能力も低下してしまい、やる気や幸福感を感じられない状態になってしまうのです。
長い間ネットゲームに依存していると、ドーパミン受容体の活性度が下がります。また数も減り、枯渇してしまいます。受容体の数が減ると本来のドーパミンの効果が得られなくなってきます。幸せな気分になるはずが憂うつになり、人間の心にマイナスの働きをするようになるのです。これは覚せい剤などの薬物依存症と同じメカニズムです。
自分ではコントロール出来ているつもりでもいつの間にかネットなしではやっていけなくなっているというのがネット依存症の怖いところです。いつでもやめられると思っていてネットをやっていても、いつの間にかコントロールができなくなっているということが起こるのです。
その結果様々なものを犠牲にしているということを認知して、適切な行動を獲得してもらう方法として認知行動療法が有効だとされています。
ネットをやりすぎる結果どのような事態が起きるのか、その後に起こる事態がどのようになるのかという正しい認知を得るという方法です。単純にどれくらい自分はネットしているのかの記録付けるだけでも、正しい認知が得られると言われています。
認知行動療法では、次のような実践がなされます。
〇ネット使用の良い点・悪い点を考えながら1日の生活を振り返る
〇自らがネット使用に求めていることを分析し、ネット以外でそのニーズを満たす方法を模索する
〇過剰なネット使用の原因を分析し、その原因への対処方法を身につける
〇ネット以外の楽しい活動を増やしていく
インターネット依存症の治療では、ネットを全く使用しない「断ネット」ではなく、自らの生活に合った適切なネット使用方法を具体的に考えていくことを通して、「節ネット」を目指していきます。
ネット依存は、人間関係のトラブルや勉強や仕事からのストレスなど、何かのちょっとしてきっかけで誰しもなる可能性のあるものです。もしも、あなたの周りにネットをやめられなくなっている人や、あなた自身ネット依存症の予備軍の可能性があるという方は、ネットのやりすぎにならないようにネット以外のストレス解消や趣味を見つけてみましょう。
しかし、やはり一人の力で長時間のインターネットを辞められないという方は、一度精神科への受診をおすすめします。