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発達障害の“診断基準外”の症状は、合理的配慮の対象になるのか?

2025.11.26

ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)には、DSM-5という正式な診断基準があります。しかし実際の臨床現場では、診断基準に書かれていないのに、当事者の多くが共通して経験している現象 が少なくありません。

たとえば、

  • APD(聴覚情報処理の困難:声は聞こえるが意味が届かない)
  • DCD(協調運動の困難:靴ひもが結べない、ぶつかりやすい)
  • 時間感覚のズレ(タイム・ブラインドネス)
  • マルチタスク困難、フリーズ
  • 刺激の選別が苦手(雑音で思考が停止する)
  • 感情同定の難しさ(アレキシサイミア)

これらは診断基準には明記されていませんが、日常生活・学校・職場に大きな影響を与える“周辺症状” です。

では、こうした“診断基準外の特性”は 合理的配慮の対象になるのでしょうか?

結論からいえば、多くの場合、対象になります。


■ 合理的配慮は「診断名」ではなく「困りごと」で判断される

合理的配慮の実務では、
「医学的な診断項目を満たしているか」よりも
「生活や学業・業務に具体的な支障があるか」

が最も重要です。

実際、学校や企業が合理的配慮を検討するときの流れは次の通りです。

  1. 本人が困っている具体的な状況
  2. その困難が学習や業務にどう影響しているか
  3. どう調整すれば改善するか

この3つが揃っていれば、診断基準に載らない症状でも配慮の対象になる ことは珍しくありません。


■ APD・DCDはむしろ「配慮の必要性が高い」領域

● APD(聴覚情報処理の困難)

  • 音声は聞こえるのに意味が入らない
  • 複数人の会話になると処理できない
  • 雑音が混ざると指示を理解できない

→ 席の調整、文字情報の併用、静かな環境の確保などの配慮が有効です。

● DCD(協調運動の困難)

  • 手先の作業が極端に難しい
  • 歩行中に人のかかとを踏みやすい
  • 道具操作が遅れる

→ 作業時間の延長、安全な動線、道具の標準化などが役立ちます。

これらはDSM-5のASD/ADHD基準の“外側”ですが、生活機能への影響は非常に大きいため、配慮の対象となるケースが実際には多いのです。


■ 診断基準には載らないが、配慮が必要になりやすい特性

以下は、診断基準外であっても、合理的配慮として調整されることが多い“典型的な困難”です。


① 時間感覚のズレ(タイム・ブラインドネス)

  • 5分後が想像できない
  • 締切の実感がない
  • 時間の流れが人と違う

→ タスクの細分化、スケジュール可視化が有効。


② 刺激の選別が苦手

  • 雑音があると処理不能
  • カフェやオープンスペースで集中できない
  • 周囲の声や動きに意識を持っていかれる

→ 環境調整、席順配慮、ノイズ軽減が役立つ。


③ マルチタスク困難・フリーズ

  • 作業と会話を同時にすると破綻する
  • 切り替えの瞬間に固まる
  • 頭が真っ白になり言葉が出ない

→ 作業環境の整理、単一タスク化で改善する場合が多い。


④ 感情の“名前がわからない”:アレキシサイミア

  • 自分の状態を言語化できない
  • ストレスが身体症状として先に出る
  • 対話型の支援が難しいこともある

→ 記録・チャート・チェックリストで可視化すると支えやすい。


■ 合理的配慮として認められるかどうかの基準

以下のいずれかに当てはまれば、合理的配慮の検討対象となります。

  • 困難が反復的で、生活機能の妨げになっている
  • 本人の努力だけでは改善が難しい
  • 認知・感覚の特性として説明がつく
  • 学業・業務で不利益が生じている
  • 第三者が見ても必要性が合理的に説明できる

つまり、“診断基準外だから対象にならない”ということはない のです。


■ まとめ

発達障害の周辺症状は、診断名以上に本人の生活を左右します。
合理的配慮は、本来こうした“現実の困りごと”を拾い上げる仕組みです。

  • APD
  • DCD
  • タイム・ブラインドネス
  • フリーズ
  • 刺激の選別困難
  • 感情の同定困難

これらはすべて、日常生活や学業・仕事に支障があれば、合理的配慮の対象になりうる領域 です。

診断名はあくまで枠組み。
その外側にも、多くの“生きづらさ”と“支援の必要性”があります。