精神疾患があっても、必ずしも“障害”とは限らない理由
2026.02.12
診察室で、こう尋ねられることがあります。
「先生、私は“障害者”なのでしょうか?」
精神科に通っている。
薬を飲んでいる。
診断名もついている。
だから自分は「障害者」なのだろうか——。
そんな不安を抱える方は少なくありません。
ただ、精神疾患があることと、制度上の「障害」があることは、必ずしも同じではありません。

障害の定義は、診断名だけでは決まりません
法律上の定義は、障害者基本法 第2条に示されています。
そこでは、
「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって、
障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」
と定められています。
少し難しい言い回しですが、ポイントは三つです。
- 心身の機能に障害があること
- その障害と社会的な環境要因の両方が関係していること
- 生活に「継続的で相当な制限」が生じていること
つまり、診断名があることそのものではなく、生活機能がどの程度、持続的に制限されているかが重要なのです。
精神疾患があっても、日常生活や社会生活が安定していれば、制度上の「障害」とは判断されません。
一方で、診断名が比較的軽く見えても、生活が大きく制限されている場合は、支援が必要な状態と考えられます。
障害という言葉は、その人の価値を決めるものではありません。
必要な支援の程度を示す、社会制度上の目安です。
実際に見ているのは「日常生活能力」
精神障害者保健福祉手帳などの認定では、次のような生活機能が評価対象になります。
・食事を自分で準備できるか
・掃除や整理整頓ができるか
・金銭管理ができるか
・通院や服薬を自力で継続できるか
・対人関係を保てるか
・危機時に安全を守れるか
・社会的手続きを行えるか
大切なのは「できる/できない」だけでなく、どの程度の支援があれば成り立つかという“必要度”です。
これらが持続的に困難で、支援がなければ生活が維持できない場合、制度上の「障害」と判断されます。
病気があっても、障害とは限らない
抗うつ薬を内服しながら働いている方。
ASDの特性があっても家庭や職場で安定している方。
双極性障害があっても寛解期に社会機能が保たれている方。
診断名があっても、生活機能が保たれていれば、制度上の「障害」には該当しません。
一方で、診断名が軽く見えても、日常生活が著しく崩れている方もいます。
境目は「線」ではなく「グラデーション」
精神疾患と障害の関係は、白黒ではありません。連続体です。
その時の症状、環境、支援体制によっても変わります。
障害は、個人の弱さを意味する言葉ではありません。
生活を維持するためにどれだけ支援が必要か、という指標です。
では、なぜ「障害者」という枠組みがあるのでしょうか
「ラベルを貼るためではない」と言うなら、そもそもなぜ枠組みが必要なのでしょうか。
主な理由は、支援を具体化するためです。
公共交通機関の割引、税制上の配慮、福祉サービス、就労支援、合理的配慮の法的根拠。
これらは、誰にどの程度の支援が必要かを社会が判断しなければ、制度として運用できません。
そのために、「生活機能がどれくらい制限されているか」という基準が設けられています。
これは、人を分類するための線ではなく、支援を届けるための入口です。
制度は「ラベル」ではなく「道具」
精神障害者手帳は、その人を定義するものではありません。
必要な支援を受けるための制度です。
診断名だけで判断しないこと。
生活機能を丁寧に見ること。
それが、臨床現場で私が大切にしている視点です。
もし「自分は該当するのか」と不安が強い場合は、診断名ではなく「生活で困っていること」をそのまま主治医に伝えてください。そこから一緒に整理できます。
制度利用を検討されている方には、精神障害者保健福祉手帳や障害年金の診断書作成にも対応しています。
必要かどうか迷われている段階でも、まずは生活の状況から一緒に整理していきます。

