【発達障害と「断れない」問題】なぜNOと言えないのか?性格ではなく“脳と神経”の話
2025.12.08
「断れない」「罪悪感が強い」その背景にHSPや発達特性(ASD・ADHD)、トラウマ反応が隠れていることがあります。精神科の視点から丁寧に解説します。
「本当は無理なのに断れない」
「頼まれると反射的にOKしてしまう」
「あとから後悔して、ひとりで疲れ切ってしまう」
こうした悩みで受診される方は、実際とても多くいらっしゃいます。
そして多くの方が、こう言います。
「自分は意志が弱いんだと思う」
「断れないのは甘えですよね」
でも、臨床的にはこの悩みは“性格”だけでは説明できないことが多いです。
特に、ASD・ADHDなどの発達特性が関係しているケースも少なくありません。
「断れない」は“やさしさ”ではなく“神経の反射”で起きることがある
一般に「断れない人」は「やさしい」「真面目」と評価されがちです。
しかし臨床の現場では、次のような脳の特性・神経の反応が影響していることが多くあります。
ASD(自閉スペクトラム症)と断れなさ
ASDの方には、次のような特徴が重なることがあります。
- 言葉を文字通りに受け取りやすい
- 暗黙の断り表現が分かりにくい
- 相手の「期待」「役割」を強く背負ってしまう
- 責任感が非常に強い
その結果、
「頼まれた=引き受けるべき」
「断る=悪いこと」
という極端なルール化が起こりやすくなります。
ADHD(注意欠如・多動症)と断れなさ
ADHDの場合は別の仕組みが関係します。
- その場の勢いで即答してしまう
- 作業量や時間の見積もりが苦手
- ワーキングメモリが弱く、後から負荷に気づく
つまり、
「引き受けた瞬間はできそうに感じた」
「後で現実に押しつぶされる」
というパターンになりやすいのです。
CPTSD・アダルトチルドレンと断れなさ
トラウマ背景がある方では、さらに別の仕組みが働きます。
- 断ると見捨てられる感覚
- 怒られる・責められることへの強い恐怖
- 相手の機嫌を最優先にしてしまう
これは意志の問題ではなく、
過去の恐怖体験によって条件づけられた“防衛反応”です。
頭で「断ったほうがいい」と分かっていても、
体が先に「YES」と反応してしまうことも珍しくありません。
「断れない人」が引き寄せてしまう関係性の構造
断れない状態が続くと、次のような関係性が固定化しやすくなります。
- 責任を押し付けられる
- 無理な要求をされやすい
- 都合のいい存在になりやすい
重要なのは、
❌ あなたが弱いから搾取される
✅ 境界線の薄さを“見抜く人”が存在する
という点です。
ここを「自分のせい」とだけ捉えてしまうと、自己否定がさらに強まってしまいます。
「HSPで断れない」と「発達障害で断れない」は違う
最近よく使われる「HSP(敏感な気質)」という言葉もありますが、
臨床的には次のように整理できます。
- HSP型:共感性・感情反応が強い
- ASD型:社会的文脈・暗黙ルールの処理が苦手
- ADHD型:衝動性・見積もりの弱さ
- CPTSD型:恐怖条件づけによる防衛反応
同じ「断れない」でも、原因は人によって全く異なります。
そのため、支援の方法も変わってきます。
医療的にできる支援
「断れない性格を直す」という発想ではうまくいきません。
医療としては、次のような支援を組み合わせていきます。
- 認知行動療法(断り方・境界線の練習)
- ソーシャルスキルトレーニング
- 環境調整(仕事量・役割の再設計)
- 必要に応じた薬物療法(不安・衝動性への調整)
目的は、
「断れない自分を責める」から
「断れる仕組みを一緒に作る」へ
視点を移していくことです。
簡単セルフチェック
以下に当てはまるものはありますか?
- 頼まれると即OKしてしまう
- 家に帰ってから強く後悔する
- 断ると罪悪感が強く出る
- 相手の機嫌を過剰に気にする
- 自分の体調より他人を優先してしまう
3項目以上当てはまる場合、
発達特性やトラウマ反応が影響している可能性も考えられます。
まとめ
- 断れないのは「甘え」ではありません
- 多くの場合、「脳の特性」「神経の反射」「過去の経験」が関係しています
- 自分を責め続けるほど、状況は固まってしまいます
- 支援や環境調整によって、「断れる感覚」は少しずつ取り戻せます
もし「断れないことで苦しくなっている」と感じているなら、
それは“性格の問題”ではなく“仕組みで整えるべき問題”なのかもしれません。
当院でのご相談について
当院では、
発達特性や不安、対人関係の困りごとについて、
心理検査や面接を通してその方の特性に即した整理を行っています。
「診断がつくかどうか」だけでなく、
これからどう生きやすくするかを一緒に考えることを大切にしています。

