【QEEG】自閉スペクトラム症(ASD)と脳波(QEEG)の関係について
2025.02.25
近年、脳の電気的な活動を記録する**QEEG(定量的脳波)**を使って、自閉スペクトラム症(ASD)の特性を理解しようとする研究が進んでいます。ASDの診断や支援に役立つ可能性のあるQEEGの研究結果を、できるだけ分かりやすく解説します。
1. ASDの脳波には特徴的な違いがある?
QEEGを使うと、ASDの人と定型発達の人で脳波に違いがあることがわかってきました。特に、**脳の「つながり方」**に特徴的なパターンが見られます。
- ASDの人は近い距離の脳のつながり(ローカル接続)が強くなりやすい
- 逆に、遠くの脳の領域とのつながり(長距離接続)が弱めになることがある
これは、脳の情報処理の仕方に影響を与えている可能性があります。
2. 脳波の周波数に特徴がある?
QEEGでは、脳波の周波数(デルタ波、シータ波、アルファ波、ベータ波、ガンマ波など)を分析することで、ASDの人の脳活動の特徴を明らかにすることができます。
- デルタ波(低周波)やガンマ波(高周波)が強め
- アルファ波やベータ波のバランスが崩れがち
これが、感覚処理の違いや注意のコントロールに関係している可能性が指摘されています。
3. ASDの脳は「カオス」状態になりやすい?
「脳の信号の複雑さ(エントロピー)」を調べる研究では、ASDの人の脳波は不規則なパターンが多いことが報告されています。
- 「情報が多すぎてノイズが増える」ケース
- 「単純すぎて柔軟に情報処理できない」ケース
などがあり、脳の情報処理のバランスが崩れやすい可能性があります。
4. 脳波を整える治療法の可能性
QEEGの研究をもとに、**TMS(経頭蓋磁気刺激)やNFB(ニューロフィードバック)**といった治療法が注目されています。
- TMS:特定の脳の領域に磁気刺激を与えて、脳波のバランスを整える
- NFB:脳波のデータをリアルタイムでフィードバックしながら、望ましい脳波パターンを学習する
これらの方法が、注意力や社会的コミュニケーションの向上につながる可能性があるとする研究が増えています。
まとめ
- ASDの人の脳波には特徴的なパターンがある
- 脳のつながり方や周波数のバランスが異なり、情報処理の仕方に影響を与えている可能性がある
- TMSやNFBなどの脳波を調整する治療法が、新たな支援の可能性として研究されている
今後の研究が進めば、QEEGがASDの診断や個別のサポートに役立つ可能性があります。これからも最新の研究に注目していきたいですね。
参考文献
- Ribeiro, L. B., & da Silva Filho, M. (2023). Systematic Review on EEG Analysis to Diagnose and Treat Autism by Evaluating Functional Connectivity and Spectral Power. Neuropsychiatric Disease and Treatment. PMC9968781
- Milovanovic, M., & Grujicic, R. (2021). Electroencephalography in Assessment of Autism Spectrum Disorders: A Review. Frontiers in Psychiatry. DOI: 10.3389/fpsyt.2021.686021
- Gurau, O., Bosl, W. J., & Newton, C. R. (2017). How Useful Is Electroencephalography in the Diagnosis of Autism Spectrum Disorders and the Delineation of Subtypes: A Systematic Review. Frontiers in Psychiatry. DOI: 10.3389/fpsyt.2017.00121
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